「取引先からCFPの提出を求められたが、自社製品はどのルールに従って算定すればいいのかわからない」——2024年以降、経済産業省と環境省の支援事業を通じて、業界別のCFP算定ルールの整備が急速に進んでいます。本記事では、2026年4月時点で公開されている全ルールの一覧と、自社製品に該当するルールの探し方を解説します。
CFP製品別算定ルールとは
CFP製品別算定ルールとは、特定の業界・製品カテゴリにおいて、CFP(カーボンフットプリント)を算定する際の共通ルールを定めたものです。国際的にはPCR(Product Category Rules)と呼ばれ、同じ種類の製品同士で算定結果を比較可能にするための取り決めです。
具体的には、算定対象の範囲(原材料調達から廃棄まで含めるか、工場出荷までか)、機能単位(何を基準に算定するか)、データの要求水準(一次データが必要な工程はどこか)、配分方法(副産物がある場合の計算方法)などが規定されています。
日本では、主に2つの事業を通じてルール整備が進んでいます。
- 経済産業省「GX促進に向けたカーボンフットプリントの製品別算定ルール策定支援事業」——業界団体が主体となり、製品間比較を想定した算定ルールを策定
- 環境省「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」——業界団体・企業群によるCFP算定・表示ルールの共通化を支援
いずれのルールも、経産省・環境省が2023年5月に公表した「カーボンフットプリントガイドライン」を上位基準としています。
【一覧】業界別CFP製品別算定ルール(2026年4月時点)
2026年4月時点で公開されている主要なCFP製品別算定ルールは以下の通りです。
1. 鉄鋼製品
- 発行: 日本鉄鋼連盟(2025年10月)
- 対象製品: 鉄鋼製品全般
- 算定範囲: Cradle-to-Gate(原材料調達〜鉄鋼製品製造)
- 算定単位: 製品1tあたり又は1m²あたり
- 特記: 鉄鋼業はhard-to-abate sectorであることを考慮し、製造プロセス転換によるGX価値をCFPに反映する「GXアロケーション方式」を導入。CFF(Circular Footprint Formula)の使用を義務付け
2. 自動車製品
- 発行: 日本自動車工業会 JAMA(2024年9月、第三者検証取得済み)
- 対象製品: 自動車
- 算定範囲: Cradle-to-Grave(原材料調達〜廃棄・リサイクル)
- 算定単位: 車両1台あたり
- 特記: GWPはIPCC AR5又はAR6の100年指数を使用。国際的な議論の場への提言も目的としたガイドライン
3. 化学製品
- 発行: 日本化学工業協会(2023年2月)
- 対象製品: 化学製品全般
- 算定範囲: 製品特性に応じて設定
- 算定単位: 製品特性に応じて設定
- 特記: 個別製品のPCRではなく、化学産業全般に共通する算定の基本的考え方を整理したガイドライン
4. 鉄鋼製品(生コンクリート・プレキャストコンクリート)
- 発行: 生コン・残コンソリューション技術研究会(2025年12月)
- 対象製品: 生コンクリート・プレキャストコンクリート(骨材、混和材料、施工時も含む)
- 算定範囲: Cradle-to-Cradleの一部
- 算定単位: 体積(m³)、重量(kg、t)
- 特記: コンクリートのCO2吸収固定特性を考慮。脱炭素型コンクリートの評価にも対応
5. プラスチック製容器包装
- 発行: プラスチック容器包装リサイクル推進協議会ほか6者共同(2026年3月)
- 対象製品: プラスチック製の容器包装
- 算定範囲: Cradle-to-Grave(原材料調達〜廃棄・リサイクル)
- 算定単位: 製品特性に応じて設定
- 特記: 環境省モデル事業として策定。TOPPAN、大日本印刷、東洋製罐、PETボトル協議会などが参画
6. 文具・事務用品
- 発行: 全日本文具協会(2024年3月)
- 対象製品: 文具・事務用品全般
- 算定範囲: 最終製品はCradle-to-Grave、中間材はCradle-to-Gate
- 算定単位: 市場での販売単位(冊、枚、台、本、個など)
- 特記: グリーン調達での活用を想定。GHG排出量だけでなく削減貢献量の把握も推進
7. オフィス家具
- 発行: 日本オフィス家具協会(2024年3月)
- 対象製品: オフィス家具
- 算定範囲: Cradle-to-Grave(原材料調達〜廃棄・リサイクル)
- 算定単位: 製品1台又は1ユニット
- 特記: 容易性・継続性を重視したルール設計。中長期的な脱炭素戦略の推進を目的とする
8. コピー用紙・印刷用紙
- 発行: 日本製紙連合会(2024年4月)
- 対象製品: グリーン購入法の判断基準に適合したコピー用紙、印刷用紙
- 算定範囲: Cradle-to-Gate(原材料調達〜生産段階)
- 算定単位: 重量単位
- 特記: 製品間で比較可能なルール。GHG排出量の削減計画策定・推移測定ツールとしての活用を想定
9. ソフトウェア
- 発行: 日本環境倶楽部(2025年12月)
- 対象製品: 受託型ソフトウェア(ウェブアプリケーション新規開発)
- 算定範囲: Cradle-to-Grave
- 算定単位: ソフトウェアの定量的な機能を機能単位とする
- 特記: ICT業界初のソフトウェアCFP算定ルール。将来の公共調達・グリーン調達での製品間比較を想定
10. 履物(Footwear)
- 発行: 環境省モデル事業(2025年2月、Ver.1.0)
- 対象製品: 履物
- 算定範囲: Cradle-to-Grave
- 算定単位: 製品特性に応じて設定
- 特記: 多様な製法・型類に対応する柔軟な設計。他社製品との比較は目的としていない
自社製品に該当するルールがあるとき
自社製品が上記のいずれかの業界に該当する場合、まず確認すべきはシステム境界と配分方法の2点です。
システム境界は、算定に含める範囲を決定します。例えば、中間材メーカーであればCradle-to-Gate(工場出荷まで)、最終製品メーカーであればCradle-to-Grave(廃棄まで)が指定されていることが多いです。自社の立ち位置に合ったルールかどうかを最初に確認しましょう。
配分方法は、一つの製造工程から複数の製品が生まれる場合に、環境負荷をどう分けるかのルールです。業界ルールで配分方法が指定されている場合、それに従わなければ比較可能性が損なわれます。
ルールがある場合の進め方として、いきなり詳細算定に入るのではなく、まずスクリーニングLCA(概算評価)から始めることをおすすめします。全体のホットスポット(環境負荷の大きい工程)を把握してから、データ精度を高めるべき箇所を見極める方が、限られたリソースを効果的に配分できます。
該当するルールがないとき——どうすればいいか
自社製品に直接該当する業界ルールが存在しない場合でも、CFP算定は可能です。
基準となるガイドラインとして、経産省・環境省の「カーボンフットプリントガイドライン(2023年5月)」と、2025年3月に公表された「CFP実践ガイド」を参照してください。これらは業界横断的な共通ルールであり、個別の業界ルールが存在しない場合の拠り所となります。
また、以下の点を確認することで、今後ルールが策定される可能性を把握できます。
- 所属する業界団体の動向: 経産省のGX促進事業や環境省のモデル事業に参加を検討している業界がないか
- 取引先の要求水準: 取引先が特定の算定基準(ISO 14067準拠など)を指定しているか
- 海外ルール: 欧州ではPEFCR(Product Environmental Footprint Category Rules)が業種別に策定されており、輸出先の規制に準拠する必要がある場合も
いずれにしても、「ルールがないから算定できない」ということはありません。共通ガイドラインに沿って算定し、将来の業界ルール策定に備えてデータ収集体制を整えておくことが重要です。
ルール整備が加速する背景——なぜ今なのか
CFP製品別算定ルールの整備が急速に進んでいる背景には、国内外の制度変化があります。
EU CBAM(炭素国境調整措置)が2026年1月に本格運用を開始しました。現在は鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素が対象ですが、有機化学品やポリマー、さらに川下製品への拡大が検討されています。EU向けに輸出する製品は、実際の排出量データに基づく報告が求められるため、CFP算定の精度と体制が直接的にビジネスに影響します。
EUバッテリー規則では、2025年2月からEV電池のCFP申告が義務化されました。自動車産業のサプライチェーン全体にCFP算定の波が及んでいます。
国内では、SSBJ基準(サステナビリティ基準委員会の開示基準)が2027年3月期から企業規模に応じて段階的に適用される見込みです。有価証券報告書でのGHG情報開示が進む中、Scope 3の把握——つまりサプライチェーン上のCFP情報——の重要性はますます高まっています。
こうした流れの中で、業界ルールがまだない業界こそ、今のうちに算定体制を構築しておくことが競争優位につながります。取引先から要請されてから慌てるのではなく、自社のペースで準備を進められる今がチャンスです。
まとめ
CFP製品別算定ルールは、2024年以降の政府支援事業を通じて急速に整備が進んでおり、2026年4月時点で10業界のルールが公開されています。自社製品に該当するルールがあればそれに準拠し、なければ共通ガイドラインをベースに算定を始めることが可能です。EU CBAMやSSBJ基準の適用開始により、CFP算定の要請は今後さらに広がっていきます。早めの着手が、将来の対応コストを大幅に下げる鍵となります。
藤森 健
LCAエキスパート・中小企業診断士 / sustainable& 代表
大手コンサルティングファームにてサステナビリティ戦略・LCA算定プロジェクトを多数経験。2024年にsustainable&を設立し、中堅・中小企業のサステナビリティ経営を伴走型で支援している。